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Ep.1574 Sakana AIが純国産モデル「Sawara」をゼロから開発へ──防衛・サイバー領域での米中依存リスクを断つ新たな挑戦(2026年10月27日配信)
Description
タイトル
Sakana AIが純国産モデル「Sawara」をゼロから開発へ──防衛・サイバー領域での米中依存リスクを断つ新たな挑戦
このエピソードで登場するキーワードを説明します。
Sakana AI: 元Googleの研究者であるデビッド・ハ氏らが東京で設立した、国内最大の企業価値を持つAIスタートアップ。複数の小規模モデルを進化的に統合する技術などで知られる。
デビッド・ハ: Sakana AIの共同創業者兼最高経営責任者。Google Brainの日本拠点立ち上げやStability AIの研究責任者を経て現職を務める。
Sakana Sawara: Sakana AIが2026年11月から事前学習を開始し、2027年春の投入を目指す自社初の純国産生成AI基盤モデル(仮称)。
Sakana Fugu: 同社が2026年6月に一般提供を開始したAIシステム。指揮者となるモデルが複数の既存AIモデルを状況に応じて使い分け、回答を検証・統合するオーケストレーションの仕組みを持つ。
事前学習(Pre-training): AIモデルの開発初期段階において、膨大なテキストやデータをゼロから読み込ませ、言語の構造や広範な基礎知識を習得させる工程。
ソブリンAI(主権AI): 他国の技術やインフラに過度に依存せず、自国のデータや計算資源、人材を用いて独自に開発・管理・運用できるAI基盤。
Noetra: ソフトバンクやソニーグループ、NEC、ホンダなど国内44社が出資して2026年7月に設立された、ロボット制御などのフィジカルAI基盤モデルを開発する合弁企業。
それでは解説に入ります。
国内最大のAIユニコーン企業であるSakana AIが、これまでの開発路線を大きく拡張する決断を下しました。2026年10月26日、東京都千代田区の一橋講堂で開催された同社主催のシンポジウムにおいて、デビッド・ハ最高経営責任者は生成AIモデルをゼロから事前学習する自社開発プロジェクトを立ち上げると発表しました。新たに開発される純国産モデルの仮称は「Sakana Sawara」で、2026年11月に開発を着手し、2027年春には最初の小規模モデルを公開、その後さらに大規模なモデルへと拡張していく計画です。
これまでSakana AIは、莫大な計算資源と資金を投じて巨大モデルを一から作るのではなく、すでに公開されている複数のオープンウェイトモデルを進化計算の手法で掛け合わせたり、協調させたりする独自の技術で注目を集めてきました。その代表例が、2026年6月に一般提供を開始した「Sakana Fugu」です。Sakana Fuguは国内の計算インフラ上で稼働し、タスクに応じて複数のAIモデルを指揮者のように束ねて高い性能を引き出す仕組みをとっています。しかし、その内部で呼び出すモデル群に米国や中国などの海外製モデルが含まれている以上、ベースとなるモデルの仕様変更やバイアス、供給停止といった外部要因に性能や安全性が左右されるリスクを完全には拭えませんでした。
今回、同社があえてコストのかかる事前学習からのスクラッチ開発に踏み切る最大の理由は、防衛およびサイバーセキュリティ領域における安全保障上の要請にあります。Sakana AIは2026年3月に防衛装備庁の防衛イノベーション科学技術研究所から指揮統制の高度化に関する委託研究を受託したほか、同年7月29日には防衛省情報本部と約3億2900万円で総合分析業務に必要なAI機能の調査・実証契約を締結するなど、国家安全保障分野への関与を急速に深めています。機密性の高い防衛情報の分析や自衛隊の意思決定支援にAIを組み込むにあたっては、学習データの出所からモデルの重みまでを完全に国内でブラックボックスなく管理できる純国産モデルが不可欠と判断した形です。
また、サイバー防御の現場でも純国産モデルの需要は逼迫しています。近年、AIがソフトウェアの未知の脆弱性を発見し、数時間で攻撃コードを生成する能力を持ったことで、重要インフラや行政機関を狙うサイバー攻撃の脅威が劇的に高まっています。これに対抗し、自国のシステムコードの脆弱性をいち早く見つけ出して修正パッチを当てる防御用のAIを運用する際、海外企業のAPIや出自の不透明なモデルに依存することは、そのまま安全保障上の脆弱性につながりかねません。
日本国内のAI開発体制を見渡すと、2026年7月にはソフトバンクやNEC、ソニーグループ、ホンダなど国内44社が結集した新会社「Noetra」が発足していますが、こちらは工場や医療現場で動くロボット制御などのフィジカルAIに焦点を絞っています。そのため、テキストやコードを扱う基盤モデルを事前学習から手掛けるSakana AIの取り組みは、日本のソブリンAI戦略において重要なピースを埋める役割を担うことになります。
もっとも、世界のフロンティアAI開発競争は熾烈を極めています。直近の2026年10月12日には米Metaが「Muse Wonder」を発表し、10月24日には中国のMoonshot AIが2.8兆パラメータの「Kimi K3.1 Pro」を発表して、それぞれ米OpenAIの「GPT-6」シリーズの性能を上回るスコアを記録しました。また、中国のDeepSeekやXiaomiなども高性能かつ低価格なモデルで市場を席巻しています。企業規模や資金力で米中のメガテックに劣るSakana AIがこの巨大モデル競争に正面から挑むにあたり、同社はモデル開発のプロセス自体にAIをフル活用して自動化と効率化を進め、開発期間と計算コストを大幅に圧縮する戦略を掲げています。独自のアルゴリズム力で世界に存在感を示してきたSakana AIが、ゼロからの基盤モデル構築でも海外勢に太刀打ちできる実用性とコストパフォーマンスを実現できるのか、2027年春の「Sakana Sawara」公開に向けて産業界と防衛当局の双方から熱い視線が注がれています。
今回のエピソードは以上で終了です。また次回お会いしましょう。