Episode 569
多くの経営者やWeb担当者の方が「AI」という言葉を耳にする機会が増えたかと思います。しかし、実際に自社でどう活用すればよいのか、具体的なイメージが湧かないという方も少なくないでしょう。今回は、中小企業がAIを使いこなすための、今最も投資対効果が高いと考えられるアプローチについてお話しします。
AI活用の失敗例としてよくあるのが、最初から新規事業のアイデア出しや、自社の新たな強みを作ることをAIに求めてしまうケースです。AIは既存の膨大なデータを学習し、最も平均的で多くの人に受け入れられる答えを出すように訓練されています。そのため、前例のない独創的なアイデアを生み出すことは本来苦手なのです。
AIに頼って戦略を立てると、どの企業も似たような結論に行き着き、結果として差別化が難しくなる「コモディティ化」を招く可能性があります。AIは1を3にしたり、3を30にしたりすることは得意ですが、0から1を生み出すのは難しい、と考えるのが現実的です。
どのような企業にも、得意な部分(デコ)と、あまりうまくできていない苦手な部分(ボコ)があるはずです。例えば、顧客サポートは得意だけれど営業は苦手、といった具合です。AI導入の第一歩としてお勧めしたいのは、この「ボコ」の部分、つまり自社の弱みや非効率な部分を埋めるためにAIを活用することです。
AIは、世の中の多くの企業が過去に取り組んできた課題に関するデータを豊富に持っています。そのため、以下のような「苦手」を解決するのに非常に役立ちます。
これらの業務をAIで効率化・自動化することで、まずは社内の非効率をなくし、業務全体のレベルを平均まで引き上げることができます。
AIを使って苦手な業務(ボコ)を効率化すると、時間や費用といったリソースが生まれます。ここで重要なのは、そのリソースを自社の得意な部分(デコ)をさらに伸ばすために再投資することです。
例えば、AIにルーチンワークを任せることで、職人はより創造的な製品開発に時間を使えるようになります。熟練の技術者は、これまで教育にかけていた時間を、より高度な技術開発に充てられるようになります。このように、人間は人間にしかできない、より付加価値の高い仕事に集中するべきです。
AIは、何でも解決してくれる魔法の杖ではありません。しかし、使い方次第で企業の強力なパートナーになります。まずは、自社の「できていないこと」「苦手なこと」を改善するツールとしてAIを導入してみてください。それによって生まれた時間やお金を、自社の「強み」をさらに磨くために使う。このサイクルを作ることが、中小企業におけるAI活用の成功の鍵です。
AIは掛け算のようなツールです。使う側に目的や知識という土台がなければ、何を掛けてもゼロのままです。まずは業務改善から始め、AIの特性を理解しながら徐々に活用の幅を広げていく。そうすることで、AIは皆さんの会社の成長を力強く後押ししてくれるはずです。