Episode 537
ラウンドナップWebコンサルティングの中山陽平です。
今回のテーマは「中小企業のWeb・IT・デジタル人材不足に、副業人材は本当に解決策になるのか」です。
ここ数年、特に2024年前後から「副業人材」「越境副業」といった言葉をメディアで目にする機会が増えました。採用や育成のコストは重く、社内にWeb・ITの専任を置く余裕もない。その中で「副業で力を貸してくれる人を活用できないか」と考えるのは、ごく自然な流れだと思います。
ただ、現場でいろいろな企業のご相談を受けている立場からいうと、「副業人材さえ採れれば一気に解決する」というような状況には、まだなっていないと感じています。今回は、その理由と、代わりにどのような選択肢が現実的なのかを、できるだけ具体的にお話ししていきます。
人材に関する悩みは、どの会社にとっても簡単ではありません。人口が減っていく中で、今までのように「フルタイムの正社員を増やして組織を大きくしていく」だけでは立ちゆかなくなる場面も増えていきます。
私自身は、「みんなが正社員としてフルタイムで働けるなら、それが一番分かりやすい」という感覚も持っています。ただ、現実としては、それだけでは立ち行かない場面が増えている。だからこそ、フリーランス、副業、プロジェクト単位の関わり方など、いくつかの選択肢をミックスしながら、会社を強くしていく必要があると考えています。
まず前提として、「なぜ社外の人材が必要になるのか」を整理しておきます。
中小企業でWebやデジタルを任せられる人を採用しようとすると、かなりのコストが掛かります。求人広告費、採用にかける時間、入社後の教育コスト。それだけ負担をかけて採用しても、数年で辞めてしまうこともあります。
しかも、多くの会社では「Webにフルタイムで張り付いてもらうほどの仕事量」は、まだ積み上がっていません。経営的にも、そこに人件費を固定で投下するのはためらわれる。結果として、「必要なときに、必要な分だけ、外部の誰かにお願いしたい」というニーズが生まれます。
少し前までは、ここに対しては主に「フリーランスにお願いする」という文脈で語られていました。そこに、ここ数年で「副業人材」という言葉が乗ってきた、というのが流れです。
「副業人材」という言葉は、メディアの中でフワッと使われがちですが、ここでは次のようなイメージでお話しします。
特徴として大きいのは、「現役の会社員として組織の中で働いている」という点です。日々、社内で決裁を通したり、関係部署と調整したり、人事や経理とのやりとりを経験している。こうした「組織の感覚」を持っていることが、副業人材に対して期待されている部分だと思います。
一方のフリーランスは、多くの場合、次のような働き方です。
フリーランスの中にも、以前は会社員として組織で働いていた人もいれば、最初から会社員経験がほとんど無い人もいます。どちらが良い・悪いという話ではありませんが、「会社という組織の力学を経験しているかどうか」は、プロジェクトの進めやすさにかなり影響します。
社外の人にお願いするとき、多くの会社では次のような体制を理想としています。
ところが現場では、そこまで社内の体制が整っていないことも多く、「社内を説得する資料を作ってほしい」「社内の人たちに説明する場をファシリテートしてほしい」といった、組織に踏み込んだサポートが必要になるケースがかなりあります。
そのときに、「組織の中での経験がどのくらいあるか」は効いてきます。「この会社でこの資料を通すなら、こういう構成で、まずこの人を味方につけた方が良さそうですね」といった提案ができる人は、フリーランスの中でも非常に重宝され、報酬も高くなっていきます。
技術スキルを持っていて、言われた作業をきちんとこなす人は、探せば一定数います。しかし、中小企業が本当に求めているのは「会社を動かして結果を出すところまで一緒にやってくれる人」です。その意味で、組織経験のある副業人材は、概念としてはたしかに魅力的です。
ここからは、少し現実的な話をしていきます。
副業人材は、本業も副業先も「雇用契約」で働くことが多くなります。この場合、本業と副業の労働時間は足し算で考えられます。原則として、1日8時間・週40時間を超える部分は、時間外労働としての扱いが必要になります。
そこから先は、36協定(時間外・休日労働に関する協定)や割増賃金、健康管理など、企業側の管理の話になっていきます。単純に「土日なら好きなだけ働いてもらえばよい」という話ではなく、本業側と副業先の企業、両方にとって「長時間労働になり過ぎないようにすること」が前提になります。
そのため、副業人材として動くには、例えば次のような調整が必要になることがあります。
こうした調整を、本業の会社側がすんなり許可してくれるかどうか。これは、その人が会社の中でどれだけの役割や信頼を持っているかにかなり左右されます。社内での発言力がある程度ないと、そもそも副業として外に出ていくこと自体が難しい、という現実があります。
もうひとつ見落としがちな視点があります。それは「副業人材を送り出す側の会社が、どう感じるか」です。
会社から見れば、その社員には給料だけでなく、社会保険料の会社負担分や、さまざまな福利厚生のコストをかけています。さらに、教育やOJTにも時間とお金をかけて育てているわけです。
そういう人材を、「競合の可能性もある外の会社」のために、労務管理のリスクも負いながら外に出すかどうか。理屈の上では「副業を認めて、人材の活躍の場を広げていきましょう」という流れですが、現場感覚でいうと、多くの会社にとってはまだハードルが高いところです。
実際、副業人材の成功事例としてメディアで紹介されるのは、知名度の高い大企業のケースが多いです。副業として関わる先も、「この会社で働いてみたい」「ここに関わること自体に意味がある」と思われるような、有名企業であることがほとんどです。
そうすると、中小企業が同じような条件で副業人材を集めようとしても、そもそも応募が集まりにくい、という現実があります。
副業人材の事例としてよく取り上げられるのは、ラインやイオンのような大企業など、有名な企業が中心です。これは単純に、メディアとして取り上げやすいこともありますし、「そこに関わること自体がキャリアになる」と見られやすいからでもあります。
一方で、自治体や中堅・中小企業が、副業人材のマッチングサービスを試している動きも出てはきていま
Published on 1 year, 1 month ago
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