Episode 568
AIに仕事を奪われるという現場の不安を解消するカギは、作業ではなく「提供している価値」を明確に伝えることです。会社としての透明性、現場とのコミュニケーション設計など、経営者とWeb担当者が知っておくべきポイントをまとめました。
AIの活用が広がる中で、「自分の仕事が奪われるのではないか」という不安や、AI導入に対する社内の反発に悩む経営者や担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。AIの導入が、従業員の満足度や幸福度にどう影響するのかは、多くの企業にとって大きな関心事です。
実際に、AI導入に反発がある会社もあれば、積極的に取り入れてうまく活用している会社もあります。今回は、この違いがどこから生まれるのか、そして従業員の満足度を保ちながらAIを活用していくにはどうすればよいのかについて、考えていきたいと思います。
早速結論からお伝えします。AI導入によって自分の存在意義が失われると感じてしまうか、それとも自分の価値を高める機会と捉えられるか。その分かれ目は、自分の仕事をどのレベルで捉えているかにあります。
「自分はこの作業をしているから、会社にとって価値がある」というように、自分の価値を「作業」そのものに見出している場合、AIによる代替への不安や拒否感を抱きやすくなります。作業がAIに置き換えられてしまうと、自分の存在価値が揺らいでしまうためです。
一方で、「この作業を通じて、会社にこういう価値を提供している」あるいは「この価値を提供するために、今この作業を行っている」というように、生み出す「価値」に自分の役割を見出している場合、考え方は大きく変わります。AIを、その価値をより効率的に、より大きくするためのツール、つまり「自己拡張ツール」として捉えることができるようになるのです。
この考え方は、マネジメント層の方にとって非常に重要です。従業員に仕事をお願いする際、単に「この作業をやってほしい」と伝えるのではなく、「この作業は、我々が提供する〇〇という価値を生み出すための重要な仕事だ」と伝える。このように、仕事の意味付けを変えてあげることが、従業員の視座を一つ引き上げ、AI時代への適応を促します。
「価値レベル」で仕事を捉えられるようになると、従業員は「自分の価値をさらに高めるにはどうすればいいか」という観点で物事を考え始めます。これは、AI時代に不可欠な「好奇心」や「モチベーション」を維持することにも直結します。
こうした考え方は、様々な調査結果によっても裏付けられています。
AI活用の度合いに部署ごとの差が生まれると、「なぜあの部署は便利なツールを使わないんだ」といった社内の分断や争いにつながりかねません。これを防ぐためにも、経営者は「会社としてAIをどのように活用し、どのような価値を目指すのか」という明確な方針を示すことが不可欠です。
「皆さんの価値は作業自体ではなく、それによって生み出す価値にある。だから、作業はAIに任せられる部分をうまく活用し、皆さんはより付加価値の高い仕事に集中してほしい」といったメッセージを発信していくことが重要になります。
私自身も、コンサルタントとして多くの作業に囲まれていますが、AIという存在を前提とした上で、「どうすればお客様に支払っていただく以上の価値を提供できるか」を常に考えるようにしています。絶望するのではなく、好奇心とモチベーションを保ち、生産性や付加価値をどう高めていくかを考えることで、AIは非常にポジティブな存在になります。
現在のAIを巡る状況は、インターネット黎明期によく似ていると言われます。当時は「ネットで物など売れない」といった声も多くありましたが、今や当たり前のインフラです。AIが今後どうなるかは誰にも分かりませんが、少なくともそれを前向きに捉え、自分にとって何が役立つかを考え、楽しく活用していく姿勢が、この変化の時代を豊かに生きる鍵ではないでしょうか。
AIの導入に際して従業員の満足度を維持し、会社全体の成長につなげるためには、従業員一人ひとりが自分の仕事を「価値レベル」で捉え直すことが重要です。そして、経営者やマネジメント層は、そのための環境づくりと明確な方針を示す責任があります。
ぜひ、自分を「手段の代替存在」として捉えるのではなく、AIを使って「生み出す価値」を最大化する存在として、自身の役割を再定義してみてください。そうすることで、心も楽になり、新たな可能性が見えてくるはずです。